一杯のお茶を口にするとき、そこにはその土地が辿ってきた長い時間が静かに流れ出します。
天狗の伝説が今も語り継がれ、朝霧に包まれた幻想的な風景が広がる山里「春野」。
聖一国師が茶の種を蒔き、徳川家康が愛飲したという、八百年の歴史を抱く本山茶の郷「玉川」。
どちらも同じヤブキタ品種でありながら、育まれた風土の違いが、二つの異なる個性を描き出しました。
絶妙な蒸し加減で仕上げた春野は、まろやかな旨みと仄かな渋みが重なり、まるで山の懐に抱かれるようなやさしい味わい。
忙しい日々のなかで、そっと肩の力を抜きたい時間に寄り添います。
対して、浅蒸し製法を守る玉川は、凛とした香りと甘みのバランスが美しく、飲み進めるほどに心地よい余韻が残ります。一日の始まりや、気持ちを整えて前を向きたいときに、静かに背中を押してくれる一杯です。
イラストレーターYACHIYO KATSUYAMAさんが描いた産地の風景とともに、それぞれの土地が持つ記憶を辿るひとときをお届けします。
「富士山はとても美しい。けれど、一度登ってみると、さらに美しく見える。」
ある登山家が語ったように、土地を知ることで、その一杯はより深く心に届くものになります。山里の伝説と歴史の薫り、二つの物語をどうぞ湯呑みに注いで、ゆっくりとお愉しみください。